ぴんぽん。
「どうも、わたくしこういう者でございまして」
インターホン上のカメラに向かって名刺を見せる。アンドレイ・レフリー。すっきりとしたグレーのスーツ。ボタンは二つ。長時間の無言。
「失礼いたしました、出直しましょう……」
車を西へ走らせる。伸び放題の芝、ペンキの剥げたピケットフェンス。変化のない景色。
『アンドレア・ロビーがお伝えいたします本日の天気予報。全国的に晴れになりますが、ところにより曇る時間もあるでしょう。今日の降下物はなし。よい一日を』
車を止める。
「ポート通り32。ここだな」
ゲートに手をかけると外れてしまう。脇に立てかける。曲がったポスト。スプリンクラーからの小さな流れ。
「えへん、どうも、どうも……」
空っぽの犬小屋。悲しくなる。
ネクタイを直す。襟も少し。ポーチ。直立。磨かれた靴。使い古した名刺。カメラのついたインターホン。
ぴんぽん。