「そんで、」男は鳩の巣そっくりに髪先を散らした頭をめぐらせた。巣でいうと卵の収まる部分では彼の頭蓋と薄い皮膚が、蛍光灯のかたちを反射している。「お前は病気持ちか?」
「いいえ」
「じゃあ……半分?」
私は単純なジェスチャーを交えて答える。「そう」
男はブロック遊びをするようにプラスチックのキーを叩き、ブラウン管のディスプレーに記号を並べた。それらは曲線とともにほんの少しずつ歪み、滲んで小さな染みを作っていた。私のトゥオネル氏領域とバイガネユ氏領域の半分は転座と重複によって損なわれている。私は欠陥保持者だった。審査官は大きすぎる鼻をすすった。
「Cマイナスか。こいつがなければぎりぎりプラスだったのにな。マヤグイストに行くなら別の許可がいる。そこ以外は問題ないよ。通行証の携帯を忘れないで」
彼は紫のカードに判を押した。遺伝子等級Cマイナスの人間のための色。“色分け”から向こう、ファッションの自由にも味気ない線が引かれていた。小物ならまだしも、紫の上着を着る人はいない。
「よい旅を」
通行証を差し出す手の爪は波打って汚かった。彼はたぶんCプラスだ、さっき彼が並べて差し出した同情と軽蔑に、自虐と親愛とほのかな怒りが滲み出て画面の文字と重なる。彼はBマイナスを逃した。
「ありがとう」
部屋を後にする。振り返ると彼はもう私を見ていなかった。あの人は一生、ニスのきいた黄ばんだ床の上で、壁紙の裏のカビの胞子を吸って暮らすのだろう。私は頭の中で、あのアルマジロに似た背中の上で光る頭と、大統領の禿げあがったAプラスの頭を比べた。