カイアバルトの東の果て、浅瀬の大僧正ヅヒラクンガァ師の住まいする大湿地ジャク=ラク=サムの三つ目の凪の夜、それは漆黒に泣き濡れるアイアドの像が捧げもつ銀の写本の隙間から生じた。報せを携えた弟子は早馬を駆って七日で王都までたどり着き、師の警告を一言一句誤らず伝えたのち絶命した。
“ハイアカの剣”を束ねる騎士ドォク・ヅヘル・ツネは謁見の間から踵を返し、慄く人々の吐いた不安が渦を巻く王城の廊下を歩いた。彼の誇りたる白銀の甲冑の威光は松明の光の下に褪せ、七つの竜の意匠を刻む板金は玩具のように喧しく音を立てた。ヅヘルは東の賢人の齎した災厄の予言が都にどんな混乱を引き起こすかに思いを馳せ、苦々しく顔を歪ませた。
我が剣達にも備えを命じなければなるまい。だが何を備えろというのだ? 最後に『アイアドの滴り』が生じたのは高祖母の代であり、既に伝承は事実とお伽噺の境を見いだせなくなっていた。騎士長が訓練場のレリーフの下を過ぎた時、騎士らは鍛錬の場にあって各々の剣を儀仗の如くに立てて携え整列していた。彼らは竜の一声に等しき彼らの長の言葉を待ち、自ずから集ったのである。