疥癬病みの男、指の股のところを反対の手でぼりぼりやりながら、告解部屋へもぐりこむ。一夜の宿を求めたものか、心の重荷を下ろしに来たか。跪くこともなく、胡座をかいて、呆けた顔をする。
向かい側に人の気配がうごめく。居眠りしていた神父である。こんな夜更けに誰ぞと思えど、寝ぼけ眼をこすりこすり、取り次ぎの仕事にはいる。
疥癬病み あんた、聖書の中の人でしょう。
神父 聖書の中の人ではないが、教えの下に生きる人間ではありますよ。
疥癬病み そんじゃあ、罪人の話を食ってくれる犬でしょう。
神父 あなたの懺悔を聞き届け、ゆるす人ですよ。
疥癬病み 何でもいいが、間違いをあげつらったりせずに聞いてくれる人でしょう。話したいことがたくさんあるんだが、なにせこれでしょう。だれひとりとて隣に座っちゃくれませんで……
神父 (疥癬病みの滅裂さに少々うんざりした様子で)そんじゃ兎に角お話しなさい。わたしはその為にいるんですからね。
疥癬病み (着込んだ上着の隙間に手を差し入れて掻きむしる。少しの間おし黙っているが、意を決したように)長くかかりますよ。
神父 お話しなさいな。(しわになっていた服をととのえる)
疥癬病み へい。(疥癬病みが喋りはじめるのに合わせて星がひとつ瞬く。両者、時おりうなずきあう。咳払いの音とともに、舞台上のなにもかも、星を残して暗がりに消える)