死ぬのは恐ろしかありません。恐ろしいのは胃痛ばかりで、夜が終わるのを、命が終わるのと同じくらい恋しく待ちわびています。どうです、医者が来るでしょう。苦い薬が来るでしょう。癒えぬ病に家人が泣くのです。それも私に聞かれぬように、暗がりでひっそり泣くのです。罪悪感に引きずられて、止せばいいのに、夜中に往来へ出ますとね、孤光電灯のもと、すれ違う顔をどれも愛おしく感ずるのです。なんと尊いものでしょうか、しかしやはり病が彼らの骨を引き裂くでしょう、小火が彼らの心臓を炭に変え、人殺しは彼らの声を擦り潰すでしょう、なんとやりきれぬことでしょうか。そのまま川べりへ行きますとね、自分の顔が水面に映ります、彼らと較べてごらんなさい、病んだものも卑しいものも、なべて尊くあるのに対し、私の顔ときたら、とうに死んでしまって、腐敗の経過の真っただ中にあるのです。そうこうしていると胃がしくしくやりだします。それが終わるまえから、次の痛みに怯えるのです。家へ逃げ帰りますと、私の苦しむのを見て、やはり家人が泣くのです。震える肩が見えずとも、家の空気が泣くのです。それが知れるのです。家の者が私の胃痛に泣くのです。死ぬのは恐ろしかありません。恐ろしいのは胃痛ばかりで、夜が終わるのを、命が終わるのと同じくらい恋しく待ちわびています。