「殺すぞ」

 それを聞いて私は、この男になら殺されてもいいと思った。「あなたの命を奪う」という文言が正しく脅迫の意味合いを持つのは奪われる命が一定の価値をもつ場合のみであり、彼は私にその価値を見いだしているのだった。構わない、とだけ言って私は仕事を進めた。まだ標的に息があったからだ。男は唾を吐き、殺せ、とつけ加えた。それはできない、と返すとまた充血した左目で怒りが燃え立った。右は機械だからその視線も冷えている。私は殺し屋ではあるが、無駄な殺しは資源の無駄でしかなく、無駄にした火薬の分、私の水槽から水草が減らされるのだ。彼は脅威ではなかった。両腕とも使い物にならない。丹念に折ってやるまでもなく、格闘の合間に砕けていった。彼を代表する欠陥はこれかもしれない。くそったれ、純人間……と、男の口の端から血混じりの唾液が糸を引き、私は胸が悪くなった。殺してやる。 それができないのを知っている身からすると、これは憐れむべきシーンだった。私は同僚の真似をして頭を垂れ、短い祈りの文句を十八の神それぞれに捧げた。手負いの獣は間抜けた笑みを顔じゅういっぱいに貼り付けた。私が仕事を終えたことをようやく理解したらしい。