お断りだ。サア出口はそちら、潔くこの場を去りたまえ。……オヤ、まだ粘ろうという積りかね。よかろう、僕の言葉を聞き流すんならこちらの彼に訊くがいい、そら助手くん言ってやれ。この天下の大先生、好奇の虫に腹を食われた稀代の好事家、世の人に我が名を存ぜぬ者なしの名探偵が、自らもって名士と称するぺてん師の依頼をだね、道端の石ころひとつ蹴るようにテンと蹴っ飛ばしてしまえるその訳を、仔細すっかり詳らかに、聞かせてやってくれたまえよ!
 ……ン。そうか。君にもさっぱり分からなんだか。
 では諸々省いてさくりと申し上げるが、僕は存在しない謎を探偵するほど暇じゃない、それだけだ。令嬢の不可解な死などと仰るが、不可解どころかなに惑うことがある、真実は明白じゃありませんか。
 それでは、お帰り頂こう。そしてその足で自首したまえよ。でなければ僕が巡査を呼んでやってもいい。どうかね。……アア、それがいい。助手くん、よければ見送ってやんなさい。駄賃をやるから、そこの菓子屋で大福でも買ってきておくれ。僕は茶を沸かしなおさにゃならんのでね……