苔むした感傷に背を叩かれて、私は故郷への道を進んだ。古い轍の痕が幾筋も刻まれたその道は色褪せた野草の原を横切って引かれ、左右どちらを見ても、変わり映えのない初秋の風景が、真っ黒な森に遮られるまで続いていた。森には狩猟で懐が潤うくらいには動物が棲んでいるはずだったが、目をやってみてもただただ陰気に静まり返っているばかりで、物音といえば軍医のへまで不揃いになった足音と、遥か北の山嶺から吹き寄せてくる冷えた風の音くらいだった。それらはほとんど意識されることなく、いかなる思い出も想起させることはなかった。もっとも、寒さだけはここまで届き、私は我が身を守るために外套の前を寄せ、襟巻きをかたく、隙間なくなるようにしっかりと巻き直した。この地方しか知らなかった時分には大したものとも思われなかったこの冷えた空気も、冬となれば防寒具を着込む生活に慣れた今となっては、どうしようもなく体に堪えるものになっていた。そういえば、父も母もここで老いたが、時折みせた関節の痛みは年々増していくようだった。私も歳を食ったから、彼らの苦悩がよく分かる。油断していると寒さは骨まで滲みていって、いたずらに節々を軋ませた。立ち止まって水を飲む。相も変わらずの景色が、淡々と伸びている。騙し絵に閉じ込められた気分だが、陽の位置と出立の時間から考えれば、目的の土地はそう遠くはないだろう。道は未だにあのみすぼらしい木彫りのアーチで終わっているだろうか。あの村は特段貧しくもないが、大して裕福でもなかった。胸踊らせる興奮のない代わりに、胸塞ぐ憂いもなかった。二十余年の月日は我が背を叩いてこの道を歩ませはしたものの、かつての日々の平坦さのほかに、まつわる何も思い出させない。彩りに欠けた我が帰郷。