あかつきに私は屋上へと続く梯子を登る。半ば錆びた金属の臭いと、骨にまで染みる冷たさに耐えがたくなってきたちょうどその頃合い、跳ね上げ扉のハンドルが、無骨なディテールを備えた曲線で歓迎した。上手いこと脚を引っ掛けてバランスをとり、両手で掴んで力をこめて回す、するとキイキイ、キイキイと鳴いて手応えが軽くなり、真上に押せば重たげに蝶番をぎしぎしさせながら蓋が開いて、爽やかな外気が、堰を切ったように流れこむ。
 あけぼのに私は塔の天辺で空へ身を乗り出す。みはるかす東の野には、くずのような四角い金属片、もといバラックの集簇が灰色の地表のあちらこちらでわだかまっている。彼方に連なる山脈のさらに向こう側の山々の不確かな稜線が、空のうす紫に滲んでいる。近いのだ、時間は刻々と流れていく。
 あさぼらけに私は遠い雲の燃え上がる中に飛ぶ機影を見つける。君だ、君が乗っているのだと、啓示にも似た確信がもたらされ、瞬きするごとに小さくなっていくそれを見守った。君の乗機の背景がやがて黄金の輝きに変わり、おぼろに霞んだ彼方の山の稜線が激烈な光線に焦がされて、その鮮やかな光の洪水が、目を焼かんばかりに照りわたる。
 夜は終わり、あしたに私は君を見失う。