今日はクリスマスという行事があったそうですよ、などとうちの人工知能が言うので、それは一体何なのだ、と尋ねれば、大昔の、えらい誰かの誕生を祝うのです、と答えた。普段は機械の本分を忘れて日がな一日ぼんやりしているくせに、わざわざ不完全な知識をサルベージしてきて、お祝いしましょう、などと嬉しそうにしているのが何やら愉快に思えて、よしじゃあ祝おう、とソファから跳ね起きて、ぐいと伸びをすれば、骨組みだけになった摩天楼の隙間を縫って、この部屋まで到達した朝日が、私の腹をぬくぬくと暖めた。
私は季節を忘れたが、このビルの管理AIはいつだって、昔ながらのやり方で、日々のささやかななぐさみを、この世にもたらそうとする。彼のお陰で、月の満ち欠けが意味をもち、草花はふさわしい名を取り戻し、忘れられた音楽が奏でられる。そして今この地球に、尊い誰かがもう一度蘇る。じゃあまず何から始めよう、と問いかけると、ケーキを作りましょう、と返ってきた。確かケーキは甘いのだ、その味を想像すればにわかにつばがわいてくる。私は人間のこういう部分しか受け継がなかったのだ、とひとりでにやにや笑っていると、心地よい鈴の音に彩られた遠い昔の曲が流れだし、骨すら残っていないであろう歌い手のその優しい声に合わせて、うちの人工知能が、これまたうっとりするような美声で、もう使われぬ言語の歌を、軽やかに口ずさむ。私のほうは食べ物によだれを垂らしているだけなのだが、彼はこの行事にまつわる文化をこそ、愛しているというわけだ。
なかなかに面白い分担だ。つまるところ、私が生物としての人間の末裔、機械は人間の知性の末裔。