ずる休み

 その日は雨だった。天地の境が濁るほどの土砂降りに、マチステア・ヴァは出勤するのが嫌になった。「今日の俺は病気なんだ」と電話をかけると、受話器の向こうの相棒は「奇遇だな、僕も何だか病気なんだ」と返した。二人は共犯になって職務を軽んじた。ヴァのアパートの薄い壁はほとんど抵抗なく雨音を通し、部屋は滝壺のやかましさで満たされている。室のずんぐりした主人はキッチンへ行くと、竜の描かれたブリキ缶を大事そうに開け、ココア色のクッキーをつまんで口に放り込んだ。ここ何日かのお湿りですっかり食感がぼやけてしまっているが、まだ缶の底が見えないほど残っていた。これはロナが焼いてくれたもので、ヴァは一日一枚か二枚の配分でじっくり食べていくことに決めていた、ある種類の飛竜がとっておきの獲物を巣穴の底で腐らせてしまうように。そして後付けの香りがむやみときつい配給品の蒸留酒の瓶を手にとって蓋を開ける、雷の音でほんの少し飛び上がり、誰にともなく言い訳じみた調子で笑い、瓶は手にしたまま、時間をかけてベッドまで戻った。いつ雨漏りしてもおかしくなさそうな染みだらけの天井を眺め、なんとか星座に見えないか無駄な努力をして時間を浪費する。両手に有り余る富だ、みんな贅沢にこれを使う、そして使いきってしまう直前になって初めて残高が残り少ないのに気づくんだ、慌てて他人に借りようとするやつもいるし、取り立て人を情でほだそうとするやつもいる。だが死神は憐れんでなどくれない、なぜなら彼もまた取り立てに怯える一人だから。ここまで考えてまた瓶を傾けると、押し付けがましい果実の香りが鼻の奥を突ついて抜けていく。まあしかし、コートを脱いだ執行人は思った、人殺しもたまには休んだほうがいい。雨はしばらく止む気配もない。