三等

 パハルベル通りの歩道の煉瓦は降り止んだばかりの雨に明度を奪われ、無数の水溜まりは雲間から覗く鮮やかな青空を湛えている。6車線の道路の向かい側に間の抜けたトリコロールの傘が踊るのを、マチステア・ヴァは二階の窓からぼんやり眺めていた。三等の券で外食のできる店は、界隈ではここだけだった。よく磨かれた組み木の床は清潔そのもの、彼が普段使っている店のように靴底に貼りついてべたべたと音を立てたりしなかった。窓際の席で突つく昼食は本物の牛の肉をふんだんに使ったサンドイッチで、ヴァはこれを両手で持ってかぶりつくつもりでいたが、ウエイトレスが無駄のない動きでナイフとフォークとを皿の脇に並べるのを見てやめた。温かいスープは、近所の食料品店で買った密輸品の缶とあまり変わらない味だった。
 鉢に盛られた名も分からない草まで綺麗に平らげてしまってからも、彼は残しておいたお茶をすすって窓際の席に居座っていた。ガラス越しに足下を通りすぎていく人の頭の中から禿げたのを探したり、帽子の種類を当てずっぽうに分類したりして自由な時間を無駄遣いする。そうこうしていると、煉瓦の色でも数えているのか、ゾヨイヤ・ベルツンが俯いたままとぼとぼと歩いてくるのを発見した。お冷やの余りを飲み干して、ちびた氷を噛み砕く。最後のひとかけが溶けないうちにコート片手に飛び出すと、丁度階段を下りた先でゾヨイヤが待っていた。
 白髪頭は急な角度に傾いだまま「三等」と言った。ヴァは「三等」とおうむ返しに答えた。二人はそこで改めて声を立てて笑いこけ、道行く綺麗な身なりの人々は面食らった様子で視線を向けては、彼らの纏うコートが現実局の人殺しの制服だと気づいて逸らしていった。昨夜の男は残り2発を使いきっても生きていたが、グリップを食らって収容所送りになった。報酬は三等だった。昼飯に満足している。