闖入者

 そこで熱い風呂から上がったばかりのアルザ・レンザイズは肌に残る水気を羽織ったガウンに吸わせ、湯気のからんだ赤錆色の髪の隙間から闖入者の挙動を見守った。ふてぶてしくもこの部屋の主の椅子に深々と身を預け、この部屋の主のグラスにこの部屋の主の酒を注いで微笑むのは男とも女ともつかない美しい若者で、さまざまな名が掲げられたがこの場では主にテット・シェーンと呼ばれていた。アルザ、醜い左手に鱗の鈍い光沢を沿わせた長髪の男、より旧い魔術の徒への畏れと蔑みをともに携えた新しい世代の魔法使いの一人、彼は目の前の無垢に目を注ぐたび、深淵に身を晒すような心持ちがした。
「わたしの部屋でわたしの酒を飲むな。それは崩壊前の品で、幸運も二度はわれわれを引き合わせない」
「飽いた味だと思った」と悪びれもせず再びグラスへ触れた唇は、幾分渋いかたちになった。「ひどい出来だ。あまり上等じゃない、ただ長い時間を生き残ってきたというだけのもので、君たちが見出だすような価値はないよ」
「語るに落ちたな」
 アルザは招かれざる客人を鼻で笑うと、用意してあった衣服を身につけにかかった。脱ぎ捨てたガウンが床板に触れる前に彼の髪は毛の先まで乾ききり、品のいい佇まいができあがるまでに左手の鉤爪はどこへやらと引っ込んで、優雅な縫製の革手袋に苦もなく収まった。そしてテット・シェーン、決定的な破滅を生き延びた過去の魔法使いは皮肉を気に入って朗らかな声を立て、相手の微笑む唇の隙間から覗く爬虫類じみた野蛮な歯列と、色違いになった両の瞳とを交互に見た。わたしはお前の祖父と母とを知っている。この男はひどい出来だ!